食道癌は日本で非常に患者数の多い胃癌に比べると、8分の1程度の発生ですが、年間約2万5千人が食道癌にかかり、1万人が死亡しています。男性は女性の6倍と圧倒的に食道癌になる確率が高くなっています。50歳以上の男性で、タバコを吸う方、お酒をたくさん飲む方が食道癌にかかる可能性が高くなります。また、お酒を飲んだ際に顔が赤くなる方は食道癌になる可能性がそうでない方と比較して非常に高くなりますので注意が必要です。しかし飲酒や喫煙をしなくても食道がんにかかる方はいます。また、咽頭や喉頭、口腔などの癌にかかった方は食道癌にかかりやすいことがわかっています。胃癌や肺癌との関係も強いとされています。遺伝ではありませんが、家族が癌にかかったことがある方は、そうでない方と比べて食道癌になる確率が2倍以上となります。
食道癌
疾患の概要
食道は咽頭(のど)と胃を結ぶ長さ25cmほどのパイプ状の臓器です(図1)。食道のほとんどは胸の中にあり、周囲を気管・気管支、肺や心臓、大動脈といった呼吸、循環をつかさどる非常に重要な臓器に囲まれています。食道癌は食道内側の粘膜から発生しますが、進行すると食道の外側まで拡がり、さらに進行すると周囲の気管・気管支、肺、心臓、大動脈を巻き込んでいきます(浸潤といいます)。また、食道癌はリンパ節に転移を起こしやすく、食道周囲以外にもお腹や首のリンパ節にも転移し、さらに血液の流れに乗ると、肝臓、肺、骨などへと転移します。これらのことから食道癌は非常に治療が難しく、治療成績も不良な癌としてとらえられています。
食道癌の発生状況と原因
- 年間約1万人が死亡
- 男性に多い
- 飲酒、喫煙が危険因子
- 飲酒で顔が赤くなる人はさらに危険
- 家族に癌の人がいると確率が上がる
症状
- 早期では無症状
- 水や食事がつかえる
- 胸・背中が痛い
- 体重が減った
- 声がかすれてきた
癌が小さいときには症状はほとんどありませんが、癌が少し大きくなると食道の内側が狭くなり、肉などの固形物がつかえるようになります。食べ物がつかえると徐々に食事量が減り体重が減少します。さらに癌が大きくなると食道の内側をほぼ完全に塞いで水も通らなくなり、唾液も飲み込めない状態になります。そして胸の奥や背中に痛みを感じたり、声がかすれるといった症状が出現することもあります。
検査法
- 内視鏡検査(胃カメラ)
- バリウム検査
- CT
- FDG-PET
食道癌を診断する方法として現在最も有効なものは内視鏡検査(胃カメラ)です。食道癌を疑う症状があった場合、まず内視鏡を行って食道癌の存在の有無を確認します(図2)。内視鏡検査では通常その場で組織を採取し(生検といいます)、病理検査を行うことで食道癌であることを正確に診断することが可能です。また最近では機器の発達により、症状が出ないような小さな癌でも発見することが可能です(図3)。以前は食道造影検査(いわゆるバリウム検査)(図4)で診断されることも多くありましたが、小さな癌では発見できないことも多く、組織採取も不可能です。現在でも重要な検査ではありますが、最初の診断を行うために行われることは少なくなっています。
食道癌の診断がつくと、癌の大きさやリンパ節転移、遠隔臓器(肺、肝臓、骨など)への転移の状況を調べるために、CT検査、FDG-PET検査などが行われます。CT検査(図5)は身体の断面像を撮影することで内部の構造が詳しく分かるため、癌の周囲への拡がりや転移の状況を把握するのに極めて重要で、癌の進行度(ステージ)を決定するための最も重要な検査となっています。CT検査は食道癌に限らず癌全般の診断に必須の検査であると言えます。FDG-PET検査(図6)はブドウ糖の代謝を画像化する検査で、最近は癌に対して行われることが多くなっています。放射線を出す物質(ラジオアイソトープ)で標識したブドウ糖(FDG)を患者さんに注射すると、癌は成長のためにブドウ糖を必要としているためにFDGを取り込みます。癌細胞に取り込まれたFDGが放射線を出すため、それを機械で撮影すると癌のある場所が浮かび上がってきます。このため、CTではわかりにくいような転移でも発見できる場合があり、CTと併用することで診断がより正確にできるようになるメリットがあります。
治療法
- 内視鏡的切除
- 手術
- 化学療法(抗癌剤)
- 放射線療法
食道癌の治療法には、内視鏡的切除、手術、化学療法(抗癌剤治療)、放射線療法があります。それぞれの治療法には長所と短所があり、どの治療法を選択するかは癌の拡がりの程度や身体の状況、そして患者さんの意志などから総合的に判断します。病気の具合によっては、それぞれの治療を組み合わせた治療法(集学的治療)を行う場合もあります。日本食道学会が治療のアルゴリズム(手順)(図7)を示しており、当院でもおおむねこのアルゴリズムに従って治療を行っております。
cStage 0, Ⅰ
cStage Ⅱ, Ⅲ
cStage Ⅳa, Ⅳb
内視鏡的切除
内視鏡的切除は内視鏡で見ながら食道の内側から癌を切り取る方法です。がんが食道内側の表層(粘膜層)だけにとどまっている場合に行います。治療時間は病変の大きさによりますが、おおむね1~2時間程度で終わり、入院も数日から1週間程度で済みます。
手術
手術は全身麻酔で行います。癌のある食道を切除し、胃を食道の代わりとして頸部まで持ち上げてつなぐ方法が最も一般的です。このように手術範囲が大きく、手術自体も繊細な技術が必要なため、食道癌の手術は手術時間も長くなり、身体への負担も大きくなります。しかし最近では手術方法や手術後の管理法も進歩してきています。私どもは現在約8割の方に対して胸腔鏡手術や腹腔鏡手術といった、細いカメラと手術器具を体内に入れて行う手術法を採用しております(図9)。従来の大きな傷(図10)と比べて術後の痛みが減り、呼吸もしやすくなるため術後の回復も良好です。通常は手術後2週間程度で退院となります。
化学療法(抗癌剤治療)
化学療法(抗癌剤治療)は癌細胞を殺す薬を投与します。現状では食道癌に対する抗癌剤は点滴のみで、何種類かの抗癌剤を組み合わせて使うことが多くなっています。しかし「この薬を使えば癌が消えてなくなる」というような特効薬はまだ開発されていません。化学療法単独による治療は他臓器に転移のある方や術後に再発した方などに対して行われます。
また他の治療法と組み合わせて行われることも多く、手術前や手術後に投与される場合もあります。最近では、進行癌に対して手術前に抗癌剤治療を行ってから手術を行うという方法が採用されることが多くなっております。一般的にはシスプラチンと5-FUという薬剤の組み合わせが多く採用されますが、私どもはドセタキセルという薬も加えた3剤の併用療法を基本として行っており、良好な治療効果を得ています。また化学療法が非常に効いた患者様に対しては、手術で食道を切るのではなく、放射線療法を併用して癌を消失させるという方法も行うことがあり、比較的良好な成績を得ております(図11)。
放射線療法
放射線療法は高エネルギーのX線を当てて癌細胞を消失させる治療法です。手術ほどの負担はありませんので、手術をのりきるだけの体力がない方でも放射線治療は可能となる場合が多くなります。放射線単独での治療よりも、化学療法と放射線療法を同時に行うほうが高い治療効果が得られるため、一般的にはこれらを組み合わせて行います(化学放射線療法といいます)。私どもは化学放射線療法の際にも3剤(ドセタキセル、シスプラチン、5-FU)併用化学療法を基本として採用しており、良好な治療成績を得ております(図12)。
化学放射線療法後の手術
化学放射線療法後を行ったにもかかわらず、癌が消えずに残る、あるいはすぐに再発をしてしまうことは残念ながら一定の確率で起こります。特に高度に進行した癌の場合では確率が高くなります。その際に可能であれば手術が行われますが、化学放射線療法後の手術は「救済手術」と呼ばれ、非常に難しい手術となります。我々は救済手術も積極的に行っておりますが、特に一般的には根治療法の適応とならないような高度の進行癌に対しても心臓血管外科や呼吸器外科などと連携して積極的に救済手術を行い、一定の成績を収めております(図13)。
胃食道逆流症・食道裂孔ヘルニア
胃食道逆流症(逆流性食道炎)は主に胃酸の逆流によっておこる病気です。代表的な症状は胸やけです。この病気は食道裂孔ヘルニアという、胃の一部が胸の方に上がってしまう状態にある人に多くみられます。治療の基本は生活の改善や、胃酸の分泌を抑える薬の内服ですが、それでも症状が改善しない場合には手術を行います。また食道裂孔ヘルニアが高度の場合は胃食道逆流の症状よりも胸部の圧迫感や、食事が食べられないなどの症状が出てきます(図14)。このような場合、胃食道逆流の症状がなくても手術の適応となります。これらの手術も腹腔鏡で行うことを基本としております(図15)。胃食道逆流症、食道裂孔ヘルニアともに手術の基本は一緒で、胸に上がってしまった胃をおなかに戻して固定し、胃酸が逆流しないように逆流防止機構を作ります。すべての方が対象になるわけではありませんが、90歳代の高齢な患者さんに対しても行うことが可能で、ほとんどの場合で症状が良くなります(図16)。
食道アカラシア
食道アカラシアとは人口約10万人に対して1人が発症する、比較的めずらしい病気です。食道と胃の境界部にある筋肉が収縮したままの状態となり、食事や水分がつかえるようになります(図17)。症状としては食道癌と似ていますが、この病気自体は悪性ではありません。しかし長期間放置すると食道癌を発症する危険性が高まります。内服薬での治療を行う場合もありますが、効果は限定的であり、ほとんどの場合が手術の対象となります。具体的には収縮してしまっている食道の筋肉を切開して食事が通過できるようにします。また、筋肉を開放しただけでは胃酸の逆流が激しくなってしまうため、逆流防止機構を作ります(図18)。治療効果は非常に高く、症状消失率は9割を超えます(図19)。逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアと同様に、ほぼすべての患者さんに対して腹腔鏡での手術を行っています(図20)。
食道の病気といわれた患者さんに向けて
私どもは食道癌を中心として、食道疾患全般に対する治療を行っております。
食道疾患は患者さんの数が少ないため、一般的な外科医にとっては十分な経験が得られいくい状況となっております。そのため症例数の少ない病院は手術数の多い病院(日本食道学会による食道外科専門医認定施設)と比較して合併症が多くなるというデータも出されています。私どもは食道外科専門医認定施設として多くの経験を有しており、患者さんの様々な状況に応じた治療を行っております。他の病院で治療が困難と言われた場合であっても気軽にお声がけください。どのような状態にある患者さんに対しても、初めて受診されたときから入院治療、その後の外来診療にいたるまで、長くにわたり患者さんと一緒に病気と向き合ってまいりたいと存じます。
胃癌
胃がんとは
胃の粘膜から発生する悪性腫瘍です。胃の悪性腫瘍の多くは胃がんという上皮性悪性腫瘍です。ピロリ菌の感染は胃がんの発生の原因の一つです。
症状
胃がんの症状で多いのが上腹部痛です。胃部の膨満感や不快感、食欲不振、悪心、嘔吐、胸やけなどの様々な症状がありますが、これらは胃がん特有の症状ではありません。胃潰瘍などによってもみられます。がんが進行することで体重減少、貧血症状(立ちくらみや息切れ)、黒色便などの症状が現れます。
早期胃がんでは症状を自覚することは少なく、検診を受けて偶然見つかります。小さな早期胃がんであれば内視鏡治療を行うことが可能です。定期的に胃がん検診を受け、早期発見に努めることが大切です。
診断
胃がんの診断には造影検査や胃内視鏡があります。がんの拡がり具合をみるために超音波内視鏡、超音波検査、CT検査PET検査などを行うこともあります。
病期(進行度、ステージ)
がんの進行度は、がんがどのくらい深くまで入り込んでいるか(T)、周囲のリンパ節(N)や肝臓・肺・腹膜など(M)へ転移しているかどうかで診断されます。粘膜下層までの深さ(T1)の胃がんを早期胃がん、固有筋層(T2)より深く入り込んだ胃がんを進行胃がんと定義しています。リンパ節へ転移(N1-3)したり、血行性に他の内臓へ転移したり、直接腹腔内へがん細胞がこぼれ落ちて起こる腹膜転移(M1)などの転移様式があります。
がんの進行度
N0 | N1、N2、N3 | |
---|---|---|
T1、T2 | I | IIA |
T3、T4a | IIB | III |
T4b | IVA | |
T/Nに かかわらずM1 |
IVB |
最終的な進行度は、手術で切除した胃とリンパ節を顕微鏡でくわしく調べてわかります。この進行度が再発率やその後の治療方針の目安となります。
治療法
外科手術の対象となるのは内視鏡治療の適応とならないがんです。ただし、全身に拡がってしまったがんに対して効果はありません。手術方法については、開腹手術と腹腔鏡下手術があります(手術支援ロボットを用いた内視鏡支援ロボット手術は次世代の腹腔鏡下手術です)。一部の進行胃がんでは、腹腔鏡で腹膜転移の有無を確認してから胃切除をするか否か、決定することがあります。主な胃の手術には、胃全摘や噴門側胃切除術(上1/3の切除)、幽門側胃切除(下2/3の切除)があります。また、周囲の転移しやすいリンパ節も同時に摘出します(リンパ節郭清)。進行具合に応じて郭清するリンパ節の範囲を拡げたり、がんの浸潤している場所やリンパ節をとる目的で脾臓などの一部臓器を切除する場合もあります。
幽門側胃切除術
噴門側胃切除術
胃全摘術
胃の手術は胃を切除した後の食物や消化液の通り道を確保するために、食道や残った胃、小腸をつなぎ合わせることを行います(再建といいます)。切除後の状態を考慮して最も適当と考えられる再建方法を選択します
再建法
Roux-en Y再建
幽門側胃切除
胃全摘術
ダブルトラクト再建
噴門側胃切除術
当院での胃がんの治療
当院では胃がんに対して腹腔鏡手術を中心に行っています。腹腔鏡手術は小さな傷ですみ、患者さんの術後の体に負担が少なく、整容面でも優れ、術後の合併症が少ないメリットがあります。また、2018年4月よりロボット支援手術が胃がんでも保険適応になり、当院でも厚生労働省から施設認定を受け十分に経験を積んだ認定医の執刀のもと積極的に治療を行っています。腹腔鏡手術と同様に安全で低侵襲な手術が可能です。
一方で、手術困難な症例や再発症例、術後の再発予防目的に胃がん治療ガイドラインに基づいて抗がん剤による化学療法も行っています。
治療法の選択は病期や患者さんの状態により様々です。胃がんの事でお困りの患者さんは当院へご相談ください。
胃GIST
はじめに
GIST(Gastrointestinal stromal tumor)とは、消化管間質腫瘍と呼ばれており、粘膜から発生する胃癌とは違い、消化管壁内の筋層の間から発生する悪性腫瘍の一種です(図1)。症状としては、胃癌の様な胃痛や粘膜出血などはきたしにくく、病変が大きくならないと下血や貧血、腹痛などの自覚症状が出にくいのが特徴です。健診などで偶発的に発見されたり、他の病気の精査の際のCTなどの画像検査で指摘されることが多いです。GISTは消化管であればどこからでも発生する可能性がありますが、発生頻度は10万人に1~2人程度と少ないです。日本での発生部位としては胃(70%)> 小腸(20%)> 大腸(5%)、食道(5%)と胃に多い病気です。GISTは胃癌とは違ってリンパ節転移はきたしにくいですが、肝転移を起こすことがしばしばあります。
診断について
GISTは正常な胃粘膜に覆われた腫瘤であるため、上部消化管内視鏡で見るとコブの様に見えます。しかし、このコブの様な病変(粘膜下腫瘍)が全てGISTであるわけではなく、平滑筋腫や脂肪腫、嚢胞、迷入膵、神経鞘腫などの良性の腫瘤も存在します。良性なのか悪性なのか診断をつけるためには、内視鏡下にて腫瘤を針で刺し組織を採取する検査(EUSガイド下穿刺吸引細胞診)を行うことがあります。採取した組織を病理検査に提出し、GISTか、それ以外か診断をつけます。
治療について
粘膜下腫瘍の全てが手術適応になるわけではありません。手術となる場合は、病理組織検査にてGISTと診断されるか、もしくは粘膜下腫瘍の治療方針(図2)に沿って手術が必要とされる場合です。手術前には必ず、CT検査などで肝転移がないことを確認します。手術に関しては、腹腔鏡下胃局所切除術もしくは、消化器内科と連携したLECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)を行っております。
一般的に、GISTに対しては腹腔鏡下胃局所切除が行われています。しかし、腹腔鏡で腫瘍の場所を正確に把握することが難しい場合、胃の入り口(噴門部)や胃の出口(幽門輪付近)に存在する場合には、胃の変形や通過障害を防ぐため消化器内科医と協力し手術を行うことがあります。手術の方法としては、消化器内科医が術中に内視鏡を見ながら腫瘍の正確な場所を同定し内視鏡で腫瘍を切除する粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal dissection: ESD)を行い、その後に腹腔鏡下胃局所切除と同様に外科医が腹腔鏡下にて胃の外側から腫瘍を切除します。この手技によって、通常の手術よりも胃壁の切除が少なくて済み、胃の変形も少なることで胃の機能が温存されます。
術後について
摘出した検体を病理検査に提出しModified Fletcher分類(図3)に従ってリスク分類を行います。肝転移がある場合や切除ができない場合、術後リスク分類にて再発率が高い群(高リスク群)である際には、腫瘍の増大・再発リスクを減らすために薬物療法を行います。
肥満手術
はじめに
食生活・生活スタイルの欧米化に伴い、日本では現在男性の30.7%、女性の21.9%が肥満であると厚生労働省から発表されています。日本の肥満症の定義はBMI(Body Mass Index:体重(kg) ÷ { 身長(m) × 身長(m) })25 kg/m2以上と定められています。肥満症になることで、高血圧症・糖尿病・脂質異常症・痛風・動脈硬化などの生活習慣病にかかりやすくなり、放置しておくと脳梗塞や狭心症など重大な病気に繋がることとなります。肥満は原発性肥満(一次性肥満)と、二次性肥満に分けられますが、二次性肥満は薬物や内分泌疾患が原因であるため、現病の治療が優先されます。
2014年4月より、わが国では腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険収載されており、海外では年間50万件以上行われています。KONISHIKIさんなどの著名人も肥満外科手術を受け減量に成功されております。当院でも小嶋教授就任と共に内分泌内科と連携し内科的治療やダイエットでの減量が難しく下記の手術適応に当てはまる患者さんに手術を勧めております。
手術適応について
現時点での肥満外科手術の適応としては、日本肥満症治療学会のガイドライン(2013年版)に沿って、年齢が18歳から65歳までの原発性肥満症患者であり、6ヵ月以上の内科的治療を行ったにもかかわらず、有意な体重減少および肥満に伴う合併症の改善が認められない方で、次の条件を満たす場合に限られます。
BMI 35kg/m2以上であり、糖尿病、高血圧、脂質異常症のいずれか1疾患以上を有する人。
肥満外科手術の術式について
日本では腹腔鏡下スリーブ状胃切除術、腹腔鏡下調節性胃バンディング術、腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術、腹腔鏡下スリーブバイパス術の4種類の肥満外科手術が行われています。 当院では、胃の外側(大彎側)を自動縫合器で切除して、胃を縦型に袖状に形成(スリーブ状切除)する腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を行っております。手術を行うことで、術後の胃の容量は約1/10に減少します。(図1)
創部に関しては、図2の様に腹部の5~6箇所の直径5~15mmのポートを通しておこないます。ポートの傷は、開腹手術よりもとても小さいので、整容面や術後の回復の早さなどにおいてメリットがあります。
手術合併症について
- 深部静脈血栓症、肺塞栓症・肺梗塞(0.5〜4%):手術中から間欠的下肢圧迫をおこない、術後も必要に応じて点滴や皮下注射などを行い血栓の予防をします。
- 呼吸不全:重篤な場合、人工呼吸器を使用したりする可能性があります。
- 肺炎・無気肺
- 心筋梗塞
- 消化管出血(2%):縫合線が長いことも関係します。診断のためには内視鏡検査が必要で、場合によっては輸血が必要となります。
- 縫合不全(0〜5%):難治性のことが多く、修復再手術が必要となることがあります。
- スリーブの狭窄・捻れ:内視鏡的に拡張治療をおこなう場合があります。
- 腸閉塞(1〜5%):食事の開始が遅れたり、治療用の経鼻チューブ挿入が必要となる場合があります。
- 逆流性食道炎(6.5%):手術前に重度の胃食道逆流がある場合にはスリーブ手術はおこないません。
- 栄養吸収障害:術後、外来で定期的に面談・検査等を行い栄養状態の評価をおこないます。
- 腹壁創部感染
- 皮下気腫:手術で使用する気腹の炭酸ガスが皮膚の下に入り込んでしまうことがありますが、多くの場合自然に吸収され治癒します。
- 腹壁瘢痕ヘルニア(15〜20%):腸閉塞の原因になることがあるので、修復する再手術が必要となります。
- その他(脳梗塞など)
なお、以上のような合併症が生じたとき、再手術や入院期間の延長に伴い、医療費(患者負担)が増える場合があります。
海外の成績では、腹腔鏡下スリーブ状胃切除では0.2%の死亡率と報告されています。日本においてはまだ十分な集計がなされていません。
術後に関して
術後翌日には飲水の開始、2〜3日目より粥食から食事の開始となります。合併症がなく経過した場合は術後1週間以内の退院を見込んでいます。
手術後半年から1年の間に、50~70%の過体重減少率(%EWL)が得られると見込まれ、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などの肥満に関連した健康障害が改善することが期待されます。
%EWL(超過体重減少率 excess weight loss)=体重減少量÷超過分の体重(現体重-理想体重)×100
特に2型糖尿病に関しては、80%以上の改善率との報告があります。ただし、手術を受けるだけで、肥満や病気が治るわけではなく、術後は胃の容量が100ml程度に縮小するので、食べ方の工夫・栄養療法・運動療法・内分泌内科の肥満専門外来への通院などを継続する必要があります。